行動変容がおこらない? それなら態度の変容に注目してみる?

 

 

保健指導の目的の一つは、

対象者が健康の保持増進のために、

生活習慣改善などの行動をおこせるようにすること(行動変容)

ですよね。

 

多くの看護職が、対象者が行動変容をおこすように、

工夫してアプローチしているわけです。

 

ただ、行動変容へ導こうという気持ちが強いあまり、

「改善対策の押しつけになったんじゃないか」

と後で気になってしまったり。

 

実際に対象者が行動変容したのか確認できなくて、

モヤモヤが残ってしまったり。

 

 

そういうこと、あなたもありませんか?

 

 

 

 

看護学生の教科書には、健康教育(保健指導)の目的として

 

1.知識の理解・習得

2.態度の変容

3.行動の変容

 

の3つがあげられています。

 

 

保健指導をするときに

「今、どの目的をもって対象者にアプローチしているのか」

という視点で整理してみると。

 

例えば、

検査結果の説明や異常値になった要因について話をしているときは

「知識の理解・習得」を目的にしていますよね。

 

そして、

改善のために何をやるか相談したり提案したり、

行動目標や行動計画をつくるのは

「行動の変容」を目的にしたアプローチです。

 

そうすると、

2つ目の「態度の変容」っていうのが、

ちょっとわかりにくいです。

 

“態度”という言葉がわかりにくければ、

“興味”とか、“関心”とか、“意識”とか、

そういうニュアンスにいいかえてイメージしてみてもいいと思います。

 

 

知識を与えれば「態度の変容」がおこることもありますが、

そうじゃない場合もよくあります。

 

例えば、

「運動不足は健康によくない」

ということはすでに十分知っていて、

「自分の健康状態を改善するには運動すればいいんだ」

とわかっているのに、

それでも運動習慣を始めない人たちがいますよね。

 

このような人たちは、言葉ではこういいます。

 

「残業が多くて時間が足りないから」

とか、

「近くに遅くまでやっているジムがないから」

とか、

「自宅周辺は交通量が多くてウォーキングするにも危ないから」

とか。

 

もちろん、このような理由も、

彼らの行動変容を邪魔している要素でしょう。

 

それなら、例えば、

残業しなくなったら・・・

近くに24時間営業のジムができたら・・・

自宅じゃなくて会社周辺をウォーキングするのはどうかと提案したら・・・

 

「じゃあ運動ができるね!」

と、彼らが“態度”を変えるでしょうか?

 

たぶん、ビミョーですよね。
( ̄▽ ̄;)

 

 

なぜなら、彼らの“態度”に影響を与えているのは、

その人の信念、価値観、好き嫌いのような感情、

などだからです。

 

彼らの“態度”が、

「ああそうだな、自分が健康な人生を送るためには運動が必要だ。

なんとか運動習慣をつくろう」

というふうに変わらないことには、

 

いくら知識を与えても、

環境の中の障害を取り除いても、

行動変容はおこらないでしょう。

 

私の個人的経験では、

なかなか行動変容がおこらない人たちは、

「態度の変容」がおこらなくて

「行動の変容」を邪魔していることが多いように感じています。

 

 

 

 

以前、こんな方(Aさん)の保健指導をしたことがあります。

 

Aさんは、すでにバリバリのメタボリックシンドロームでした。

関連疾患が複数あって内服治療中です。

それ以外にも健診結果で異常値を示している検査項目が

いくつかありました。

 

当然、主治医から食事療法や運動療法の指導を受けています。

どんなことを実践しているかうかがったところ。

 

食事制限とか、

週末には自転車で運動したりとか、

昼休みに会社の周りをウォーキングしたりとか、

いくつもあがりましたが・・・

 

実はそれは、過去の話。

 

仕事が忙しく、残業が月100時間超に増えてしまってからは、

食事時間がバラバラで食事制限とかやってられなくなったし、

睡眠時間も短くなってとにかく眠いから昼休みも昼寝したいし、

家族の世話で週末も忙しくて自転車に乗る時間もない、

とのことでした。

 

他にも、

◇◇を治療していたけどよくならないからやめた、

〇〇もやってたけど効果がわからないからやめた、

△△がいいと聞いてやってみたけどお金が続かなくてやめた、

などなどなど。

 

今まで、いろんなことをやってみたけど、

続かなかったようです。

 

 

字面で見ていると、Aさんが、

「わかっちゃいるけどできないんだよ。仕方ないでしょ」

とひたすら言い訳をしているように感じるかもしれませんが。

 

実はAさんは、

「今はやっていない」という部分を話すときは、

私から目をそらしていました。

 

そんな様子を見ているうちに私には、Aさんが

「やらなきゃいけないのに、やっていなくてすみません」

と言っているように感じたんですよね。

 

 

「今まで、いろいろ取り組んでこられたんですね。

でも今はそういうのが全然やれていなくて、

ちょっと後ろめたいような・・・」

 

言いかけた私の言葉にかぶせるように、

Aさんがこう言いました。

 

「そう。罪悪感があるんですよ」

って。

 

 

保健師:そうなんですね。お話うかがっていて、

そういうお気持ちが伝わってきました。

せっかくAさんにはがんばりたい気持ちがあるのに、

それが罪悪感になってしまっているのは残念ですよね。

 

Aさん:でも、忙しくて・・・。

 

保健師:Aさんは、やろうと思ったらちゃんと行動をおこす方ですよね。

だけど続かないっていう感じかなと。

 

Aさん:そうですね。そうです。

いい結果が出ないから、やっても無駄だと思うし。

 

保健師:ん~、Aさんが求めるような劇的な結果は、

ちょっとハードルが高過ぎるかもしれませんね。

もしよければ、発想を変えてみませんか?

 

Aさん:???

 

保健師:Aさんのように行動を始められるっていうのは、

すごいことなんですよ。

せっかく始めたんだから、“やめないで続ける”ということを

目標にしたらどうでしょうか?

 

Aさん:続ければいいんですか?

 

保健師:改善するのもやっぱり時間かかるので、

すぐに思うような成果は出ないと割り切って。

それよりも、3か月続いたな、半年続いたな、っていうふうに、

続けられたことに価値を置いていただけたらいいと思うんですけど。

 

Aさん:そうですね。

今まで、続けようということをあまり思っていませんでした。

 

 

このあと、Aさんは、

本当にちょっとしたことですが、

生活習慣改善の行動をやってみることになりました。

 

そして、

「続けることを目標にしてみますよ」

と言って、帰っていかれました。

 

 

 

 

実際にAさんが「行動変容」をおこすかどうか、

保健指導の場面ではわかりませんが、

少なくとも「態度の変容」はおこったと見てとれると思います。

 

そして、この保健指導で、

「態度の変容」をおこすきっかけとして使ったのが、

Aさんの感情へのアプローチでした。

 

もしあなたが、

保健指導の対象者に「行動変容」がおこせないと悩んでいるなら。

 

対象者が「行動変容」をおこしたのかどうかわからないので

自分の保健指導に自信が持てないというなら。

 

「態度の変容」に注目して

やってみるといいかもしれませんよ。
(^_^)/

 

 

 

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