「何をやればいいですか?」ときかれたときに

 

 

私は昔、保健指導をやっていて、

↓ こういうドツボにハマってしまうことがよくありました。

 

「運動を始めてみましょう」

「何をやればいいですか?」

「ウォーキングはどうですか?」

「残業が多くて時間が取れないです」

「では、エレベーターを使わないで階段を使うというのはどうでしょう?」

「職場は8階だし、自宅はマンションの12階なので。ちょっと無理ですね」

「じゃあ、週末にスポーツするというのは?」

「以前は草サッカーのチームに入ってました。膝が痛くて走れなくなって今はやってません」

「そうですか。膝に負担がかからないように水泳をやることにした人もいましたけど」

「水泳ですか。プールが近くにないですしね」

「はあ~、そうですか・・・」

 

・・・・・・( ̄▽ ̄;)

 

 

こんなとき私は、自分がつくづく情けなくなります。

 

対象者の行動変容に結びつくような提案ができないこと、

自分の提案力の低さ、

提案内容のバリエーションのなさ、に対して。

 

そして、なんとか解決を試みようと、

「体重減量には〇〇をするといい」

とか

「△△で血圧が下がる」

などと、

聞きかじった内容でもなんでも提案してましたね。

 

今思うと、

そんなことをしても解決になってなかったですが。

 

 

 

 

しばらく前の話になりますが。

ネットの記事で「挙証責任」の話を読みました。

 

「挙証責任」というのは裁判用語です。

裁判は証拠によって判断されますが、

その証拠をあげられなかった場合は、

一方の当事者が受けることになる不利益のことです。

 

その記事では、例えとして、

「休日に誘いを受けてそれを断る」

という話を説明していました。

 

自分は誘われたけれど気がすすまないので断ったら、

相手が「なぜ?」ときいてきたとします。

 

そこで、

「その日は予定があって」

とか、

「家族が車を使うから、自分は足がなくて出ていけない」

とか、

当たり障りのない理由を答えました。

 

すると相手が、

「次の週でもいいよ。合わせるから都合のいい日を教えて」

と言ってきたら。

 

さあ、

「今度はどういう理由で断ればいいのか」

 

と、頭を悩ませることになってしまいました。

 

こんなふうに、

「なぜ?」ときかれて、

あれこれ理由を言って、

それに反証されて、

ドツボにハマるのは、

 

「挙証責任を受け取ってしまったから」

なんですって。

 

 

ちなみにこの場合、

断る理由をいろいろとひねりださなくても、

「嫌だ」の一言でいいらしいです。

 

こちらには、誘われてもそれに応じる義務はないわけで、

それでも誘いに応じるべきであるなら、

誘ってきた相手のほうに

「誘いに応じる理由をあげる責任」がある、

という解釈になるということで。

 

 

 

 

この記事を読んだとき、私は冒頭にあげた

「保健指導でドツボにハマってしまう展開」

を思い出しました。

 

このパターンにハマってたんだな~と。

 

健康によくない生活習慣を続けて、

もし健康障害をおこしてしまったら、

困るのは対象者本人ですよね。

 

将来の健康障害を回避するために

必要な努力をする責任があるのも、

対象者本人です。

 

私たち看護職は保健指導の中で、

「将来の健康障害を回避するためには運動するといい」

というアドバイスはできますが、

看護職が代わりに運動するわけにはいきませんし。

 

対象者に、

「本当に運動をしたい、やろう」という気があるなら、

どうすればいいかを考える責任は、

対象者のほうにあるはずです。

 

 

ところが、対象者から

「何をすればいいですか?」

と質問されると、

つい、その質問に丁寧に回答したくなりますよね。

 

質問を受けるということは、

専門家として認められたような気がして。

 

質問に答えられることが、

専門家のあかしのような気がして。

 

 

でもちょっと待ってください。

 

もしかして、質問と一緒に、

本来なら対象者本人が背負うものである

「対策を考える責任」まで

受け取ってしまってませんか?

 

 

医療・健康に関することは、

一般の方々にはわかりにくいことも多いので、

対象者が初めから依存的に、

看護職に答えを求めてくることがあります。

 

看護職のほうも、

正解を伝えて、それを押しつけるほうが、

実は楽なんですよね。

 

でもそれでは、

対象者は「対策を考える責任」を看護職に受け渡し、

「自分からは何もしようとしない」

という姿勢でいられるんです。

 

この状態では、

何を提案しても受け入れられないだろうな、

と思いますよね。

 

もし提案を受け入れてやることにしたとしても、

続けられるかは怪しいです。

 

私たち看護職は、

「対策を考える責任」を相手に残したまま、

対象者本人が考えられる方向にシフトできるといいですね。

 

 

・・・とは言っても、

保健指導の場で対象者から

「何をやればいいですか?」

と聞かれて、

 

「それには答えません」

と突っぱねるわけにはいきません(笑)

 

ただ、せめて、

全面的に責任を受け取ってしまって

あたふたするのは避けたいところです。

 

実は恥ずかしながら私は、今でも油断していると

「対策を考える責任」をうっかり引き取ってしまうことがあります。

 

でも、

「ドツボにハマりかけている!」
Σ( ̄□ ̄lll)

と気づいたら、そこから軌道修正していますよ。

例えばこんなふうに。

 

「じゃあ、〇〇さんが“これならできそう”と思うものをあげてみてください」

って(^_^;)

 

 

 

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