職場巡視の奥行きを深める一言

 

 

先週、職場巡視がテーマのセミナーに参加してきました。

 

主な対象は産業医(産業医研修の単位取得が可能)というセミナーだったので、

実践を意識した内容で面白かったです。

特に、作業現場の動画を見ながら職場巡視したときの指摘事項を探して、

グループワークで共有する演習がとても参考になりました。

 

セミナーでは、グループワークで出た内容を発表し、

それも踏まえて講師が解説してくれましたが、

その中で印象に残った話がありました。

 

それは、

労働者の作業姿勢が悪くて気になったとき、

すぐに指摘しないで、労働者に、

「作業時間はどのくらいか聞いてみる」

ということです。

 

講師の先生はこんなふうにいってました。

 

「現場にはこの作業をこの姿勢でやらざるを得ない事情があるかもしれない。

もし作業台を高くしたら、重たい製品を作業台の上に載せるために、

新たな作業姿勢の問題が出てくるかもしれない。

でも、もしこの作業をする時間が一日15分とか、1時間とか、

その程度であれば健康障害の可能性を深刻にとらえなくても

いいかもしれませんよね」

と。

 

 

確かにそうですよね!

 

私たちが職場巡視で現場を見ている時間は、

一日のうちのほんの数十分です。

 

たまたまそのとき見た状況が、

一日の、一週間の、一か月の、一年の、

すべての作業ではないということです。

 

職場巡視に行って、

「何を指摘すればいいのかな」

ということに意識が傾いていると、

そんなあたり前のことも、つい忘れがちになります。

 

とはいえ、セミナーの演習では、

「職場巡視の指摘事項を探す」という課題で動画を見ていたので、

悪いところ探しになってしまったのはやむを得ないと思いますが。

 

現実の職場巡視でもそういう姿勢になっていないか、

と振り返るきっかけにはなりました。
(^_^)

 

 

 

 

私は以前、製造業の会社で産業保健師をしていました。

 

職場巡視に行くと、

保健指導で腰痛の話をしたことがある労働者が、

前かがみの姿勢で作業してるのを見かけたりして。

 

「あの人、腰が痛いって言ってたけど。これは作業姿勢がよくないわ~」

と思ったことも一度や二度ではありませんでした。

 

そんなとき、

「その作業姿勢が腰痛を起こしているんですよ。すぐに改善してくださいね」

と言うのは簡単かもしれません。

 

しかしそれで、

作業者や職場が簡単に受け入れて改善してくれるかというと、

そうはいかないのが現実ですよね。

 

なぜなら、多くの場合、

そういう作業姿勢がよくないことは本人も職場もよく理解していて、

それでもその姿勢で作業をせざるを得ない理由があったりするからです。

 

もしかしたら以前はもっとよくない姿勢で作業していたのかもしれません。

でも、作業台や作業用の椅子や工具などを工夫して、

ようやくこの作業姿勢に落ち着いた・・・

という事情があったりするからです。

 

彼らにしてみれば、

自分たちだっていろいろ工夫しているのに、

それを知りもしないで頭ごなしに

「こんな姿勢で作業やってちゃダメだよ」って言われて、

「はいそうですか」とは言いたくない、

という感情的な反発だってあるからです。

 

 

こんなとき、すぐに作業姿勢の問題点を指摘する代わりに、

「この作業は一日のうちどのくらいの時間やってますか?」

と聞いてみるのは、

お互いの妥協点探しの一つとして使えそうです。

 

作業時間と健康障害への影響を考えるときには、

いろいろ参考になる資料もありますしね。

 

 

そのうちの一つ、騒音作業の例をご紹介したいと思います。

 

騒音職場の作業環境管理区分の基準値は、

第2管理区分になるのは85db以上から、

第3管理区分になるのは90db以上から、

ということになっています。

 

この、85dBとか90dBという基準値が、

どういう根拠で出てきているのでしょうか。

 

日本産業衛生学会が許容濃度等の勧告というのを出しています。

これは1日8時間以内の曝露が10年以上続いた場合でも、

聴力低下が日常生活に支障を及ぼさない、

と期待できる範囲を示したものです。

 

見ていただくと、<85dBでは8時間>ということなので、

一日の就業時間が8時間と考えると、

「その作業場が85dBよりも騒音レベルが低ければ、

毎日そこで作業をしても聴力低下には影響を及ぼさない」

と考えられるわけですね。

 

逆に、90dB以上の作業場であれば、

騒音性難聴の予防のためには、

「1日の作業時間を2時間半より短くくしなければならない」

ということです。

 

それでも作業時間を伸ばせるように、

耳栓やイヤーマフなどの保護具を使用するという方法もありますが。

それはまた別の話なので・・・

 

 

このように、作業時間の管理によって健康障害を防止することもできます。

職場巡視のとき、作業時間のことも意識していれば、

「この作業環境は問題です」とか

「この作業姿勢はよくないです」とか

「だから改善してください」という直接的なコメント、

とは違う提案もできるようになりますよね。
(^▽^)

 

そしてきっと、

あなたの職場巡視に奥行きができると思います!

 

 

 

 

私も「産業看護職の職場巡視」をテーマにしたセミナーを

やらせていただいています。

今回参加してきたセミナーで産業医の視点や考え方を教えてもらえて

とても参考になりました。

 

それと同時に、

産業看護職はなるべく産業医とかぶらないように、

看護の視点を生かせる職場巡視ができたらいいなぁと、

改めて思ったところです。

 

だからというわけではないのですが・・・

「私もできる! やりたくなる! 職場巡視 ~産業看護職の職場巡視とは~」

というWebセミナーを来月開催予定です。

詳細のご案内ができ次第、お知らせしますね!

 

 

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